膝のスポーツ障害

成長期の膝の痛み

成長期スポーツ障害の特徴

成長期の骨には、俗に「成長線」と呼ばれる部分があります。正式には「骨端線」「成長軟骨板」と言いますが、成長に伴って骨が伸びたり太くなったりするのに大切な部分です。成長線は場所によって異なりますが20歳の頃、すなわち身長が伸び切る頃にはなくなります。X線では図のように骨の隙間のように写りますのでこの場所で痛みが出てくると「骨折」と間違われることがあり、骨端線がある年代では、痛くない方とともに撮影して比較する必要があります。

成長期の関節では この骨端線や骨端線周囲の損傷が痛みの原因になることがあります。

大人の骨では、ぶつかるなど強い力は加わると、その場所で骨にひびが入ってしまったりしますが 成長期では弱い部分である骨端線がやられやすいのです。

 

1)オスグッド病

上の図はいずれも膝を横から見たところです。
ボールを蹴ったりダッシュをするとき、膝を伸ばす動作では膝のお皿の上にある筋「大腿四頭筋」を収縮させます。この時にお皿の骨の下にある「膝蓋腱」も引っ張られますが、骨端線の弱い部分に力が繰り返し加わると疼痛の原因になります。

【 予防・治療の方法 】

大腿四頭筋のストレッチ

本来は弾力性がある大腿四頭筋が硬くなると、ボールをけったときに急激に強い力がかかってしまい、病変部をはがすような引っ張り力が強くなってしまいます。硬くなった大腿四頭筋(大腿の前面)を次の練習まで残さないようしっかりストレッチを継続することが重要です。

装具・テーピング

装具やテーピングで病変部の上の部分を圧迫するとオスグッド病の病変部分への引っ張り力が減り、疼痛が減ることがあります。ただしお皿の大きさや体格を考慮しないで市販オスグッドサポーターを装着したりテーピングすると逆に痛みが悪化してしまうことがあるので、診察でスポーツドクターに一度相談するとよいでしょう。

手術

手術になることは少ないですが疼痛がなかなかとれない場合、成長期を過ぎてもオスグッドの症状が残っている場合には、骨を固めたり、はがれた骨をとる小手術を行うことがあります。


 

2)分裂膝蓋骨・二分膝蓋骨

上の図は前から見た膝です。
通常膝の骨は一つの塊ですが、小さなときはX線写真には写らない軟骨のかたまりです。それが徐々に骨に変化して一つのお皿の形になります。しかし固まるときに一部が軟骨のままで線状に残り、一つの骨にはならず2つもしくは3つの骨に別れたようになる場合があります。これが分離膝蓋骨です。
X線には写りませんが膝のお皿にはいくつかの筋・腱がついています。
分離膝蓋骨で最も多いのは外上部分が分離したようになるもので、この部分には外側広筋腱という硬い腱がついています。
スポーツ活動が激しくなると分離膝蓋骨では、別々の方向に腱が引っ張られると通常の弱点である分離部周辺で痛みを出しやすくなります。
通常のX線写真ではわかりにくく、長い時間「原因不明の膝の痛み」と放置されてしまうこともあるので、膝の運動時痛が長引く場合にはスポーツドクターを受診して確認してもらいましょう。

【 予防・治療の方法 】

この形状でも痛みが起きない選手も大勢いますので、心配する必要はありません。

外側広筋腱のストレッチ 外側広筋腱の硬さをとることが重要です。

外装広筋腱部分へのブロック注射。

手術。

分離した骨の部分を固定したり、逆に分離した骨の部分を取ってしまう手術が広く行われていますが、当院では、外側広筋腱付着を小さな創で切離する方法「外側支帯切離術」を行い、早期にスポーツ復帰できることを確認しています。しかもこの方法では直接骨を処置しないにも関わらず骨も手術後癒合することが多いのです(2010年 日本関節鏡・膝・スポーツ医学会で発表)。
困っている方は是非ご相談ください。

 

3)円板状半月板

膝には、上の骨と下の骨の隙間=ちょうど曲がるところに「半月板」と呼ばれるクッションの板が入っています。 「半月板」は、上から見ると通常「C」の字の形をしています。このため、半月板は前後から押されても真ん中の部分でしわが寄らないようになっています。
しかし日本人で約5%の人に「C」の字ではなく、くぼみのない「円板状」の半月板の方がいます。
この形状があると半月板の中央部分でしわを作りやすくなり、厚みのために引っかかりや痛みが起きやすくなります。このためスポーツで支障をきたすことが目立ってきます。通常、小学校高学年~中学生で発見されることが多いですが、X線ではわからずMRI検査が必要です。

 

【 予防・治療の方法 】

症状を改善するためには、円板の形状を「C」の字に切除する方法が必要です。
内視鏡にて行い5ミリ程度の創で行うことができます。
半月板に大きな断裂がなければ手術後すぐに体重をかけることはでき、入院も数日間のみですし歩くこともできます。ただし運動は2カ月~4カ月の制限が必要になります。
症状のない円板状半月板はそのままにしていて構いません。

右図
円板状半月の中央部分が盛り上がってしわを作っている。 点線部分を切除し、「C」字の形に切除した。

 

4)ジャンパー膝、ランナー膝(膝蓋腱(靭帯)炎、大腿四頭筋腱炎)

オスグッド病になりやすい年齢を過ぎた年齢で、膝周囲の筋や腱の柔軟性が失われたり、運動量が体格に対して多すぎたりするとお皿の骨(膝蓋骨)の上下の部分で痛みが出現し長引くことがあります。

 

【 予防・治療の方法 】

ストレッチ

「オスグッド病」の項で述べたようなストレッチがまずは重要です。

靴のチェック

靴のかかとがすり減ったり、左右アンバランスにすり減っている場合は膝の筋腱への 負荷が多くなり痛みを長引かせます。靴のチェックをし、不適切な場合は靴を変えま しょう。

ブロック

腱の周囲の部分にブロックをすることで疼痛が和らぐ場合がありますが、注射のやり方によっては効果がなかったり、腱を痛めてしまうこともあります。そのため、当院ではエコーを用いて正確なブロックを行っています。



 

膝のスポーツ障害

転倒や着地で膝をねじったりした場合、以下のような損傷を起こすことがあります。これらは10代~50代の幅広い年代で見られます。

1)膝半月板損傷/断裂

膝の捻挫や使い過ぎで、本来はクッションとして働くはずの半月板にひびが入ってしまい、痛みや引っ掛かり、曲げ伸ばし制限の原因となる場合があります。
走れない、階段が登れない、正座ができない、引っかかる感じがある等の症状が出ます。
X線ではこの損傷は写りません。MRIでよくわかります。


 

【 予防・治療の方法 】

半月板が断裂してしまうと多くの場合手術が必要です。

手術は5ミリほどの創を2か所作りそこから直径4ミリの棒を膝の中に入れて行う「関節鏡手術」で行います。この棒には先端にカメラがついたものや先端で半月板を挟んだり切除したりするものなど様々な種類があり1か所の創からカメラの棒を入れ、もう1か所の創から挟むもの切除するものなど処置用のものを入れて行います。
手術には「切除」と「縫合」があり、断裂のパターンや年齢で選択します。

 

クッションなので、できれば残した方がよいのですが右図の赤線のように断裂が入るとその中心側は変性してしまい反転し引っかかったりしてクッションの役目は果たさないので斜線の部分を切除します。

一方半月板の外縁に沿って裂け目が入るタイプでは、その中心側部分の傷み方が少ないようであれば「縫合」を行います。 縫合は手術用の糸で行いますが、これも内視鏡で行うことができます。

 

 

「切除」の場合は、手術後すぐ足をついて歩くことができます。体育やスポーツは1~3カ月休止します。
「縫合」の場合は、手術後1カ月程ギプスかサポーターで固定し、膝を曲げたり足をつくことができません。松葉杖での移動になります。車の運転もできません。体育やスポーツへの復帰は3~6カ月かかります。
休止期間中は上半身や体幹の筋トレなどを行い体力を落とさないようにメニューを組みます。
休止期間は、年齢、体格、断裂のパターン、競技レベルによって個人差があります。

2)膝前十字靭帯損傷/断裂

右図は右膝を前から見た図です。
膝には内側、外側の両サイドに上の骨と下の骨をつなぐ靭帯があり、横ブレを防いでいます。
これらは「内側側副靭帯」「外側側副靭帯」と言います。
中央部には上の骨から下の骨の前の方に向かってつく靭帯と後ろの方に向かってつく靭帯があり、前の方に靭帯を「前十字靭帯」と言います。


 

通常、捻挫では内側側副靭帯を痛めることが多く、この場合は手術などは不要の場合が多いですが、強いひねりが加わった場合などはこの前十字靭帯を損傷してしまいます。
例) サッカーでの転倒、バスケットやバレー、ハンドボールでの着地、スキーでのターンの失敗、柔道など格闘技でのひねり、陸上競技

【 治療の方法 】

右の写真は膝を横から見たものです。
前十字靭帯が切れると下の骨が前にずれやすく(=亜脱臼)なってしまい、本来スムーズに曲がる膝がごつごつとぶつかってしまい変形を起こしやすくなる危険があります。
・ スポーツを定期的にする方
・ 膝をよく使う仕事の方
・ スポーツをしなくても30歳未満の方
については、現在あまり症状がなくても膝の変形を起こすリスクが高いので手術をおすすめします。


 

手術をしない場合には、写真のようなずれで膝の軟骨や半月板、軟骨を傷めないよう、サポーターをした方が良いでしょう。 サポーターは前後不安定性をガードするもの(例 ザムストの5番)でなければ効果がありません。

手術

膝前十字靭帯は、他の靭帯と違って「切れた部分を寄せて縫ってもつかない」という弱点があります。したがって前十字靭帯を治すには、靭帯の部分を体の他の場所から持ってきて作ってやる、という「靭帯再建術」を行う必要があります。

現在、私は2つの方法で手術を行っています。
いずれも膝の上の骨(大腿骨)と下の骨(脛骨)に径5~7ミリのトンネルを掘りその中に前十字靭帯の代わりになるものを入れて固定する、という方法です。

BTB法

膝のお皿の下の部分にある幅3センチほどの腱の一部を骨と一緒にとって、前十字靭帯のあった場所に植える方法です。 しっかりした強さで固定できますが、膝を伸ばす筋力(キックの筋力)の回復が遅いこと、手術後の疼痛や違和感の出現がST法より多いことが欠点で特に筋力が弱い女性の場合これらの影響が出やすくなります。


 

ST法

現在最も多く行われている方法。 膝の裏を通る長い腱を一部取ってこれを折って束ねて、前十字靭帯の代わりをさせるもの。
トンネルを1本掘る方法と細いトンネルを2本掘る方法があります。

BTB法よりも手術の影響は少ないですが、つくった靭帯の長期の固定性ではやや劣るとも言われています。
いずれの方法でも 手術後は厳密にプログラムを守らなければなりません。種目にもよりますが通常の練習に戻るには6~8か月かかります。