ユリシーズと臨床検査

2018年11月01日

皆さんは、ユリシーズ症候群(Ulysses syndrome)はご存じだろうか。
ユリシーズという名前は古代ギリシアの詩人Homeros作『オデッセイ(Odysseia)』に登場するギリシア西海岸に位置するイタカ島の王の名前である。彼はギリシア軍を率いる軍の参謀役でもあり、トロイア戦争において木馬の策略でトロイアを落城させた人物として描かれている。
この戦争で勝利したユリシーズ達は、順調な追い風の中、帰路の航海をしていた最中に小さな美しい町を見つけることになる。勝利の余韻が残っていた彼の軍はそこに上陸し略奪した後、宴会を始めたが、酔ったところを反撃され、急ぎ船に逃げ帰った。そのとき多くの兵隊を失い、船までも反撃され壊れたので軽くするためトロイアで手に入れた戦勝品を海に捨てることになった。

海の中では水の精たちがそれを奪い合う騒ぎを起こしてしまい、眠っていた海神ポセイドンが目を覚まし騒ぎの原因を作ったユリシーズたちを、故国を超えたアフリカまで吹き飛ばしてしまった。そして漂流しながらやっと故国にたどりついたときには10年の月日が経っていた。結局、進撃で10年、漂流10年とで20年もかかり帰国したことになる。

 

このユリシーズの冒険は、故郷を出て20年間も必要のない苦労に翻弄され帰国したという物語である。この主人公の苦労になぞらえてRang,M.がユリシーズ症候群を提唱した。これは医原病のひとつと考えられおり、症候群とあるがカルテに記載される疾患名ではない。臨床検査を受けた人がそのとき、健康であったにもかかわらず、偽陽性の結果などにより再検、さらに二次的な検査項目を受けたり、その誤った検査結果に対する治療を受けたり、最悪の場合、これを基に体に異常をきたす危険性を警告したものである。
これの本質は検査を受けたことがトリガーとなっていることが特徴である。私たち、臨床検査技師は常にこのような状況に陥らないように、検査結果を保証できる高い技術と知識をもって日々業務にあたっています。

 

【参考書籍】
   只野壽太郎 監修.検査値推理学入門―臨床検査のピットフォールー,医歯薬出版(株),1991,270p.

 

若草第一病院 臨床検査課